純金融資産の違和感

 日本における世帯の資産規模を示す図に有名な5階層のピラミッドがあります。この図は「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数」として野村総合研究所が作成・公表したものです。日本屈指のシンクタンクの信頼感でしょうか、ニュース記事やコラムなどで数多く引用されており、資産形成に興味ある方なら何度も目にしている図であると思います。100世帯のうち2から3世帯は1億円以上のお金持ちなんだとか、やっぱり全世帯の約八割はマス層なんだとか、住宅ローンがあるから我が家の資産はマイナスなの?とか、よく出来た話のネタだと思います。もちろん筆者はマス層でして、定年退職後はアッパーマス層あわよくば準富裕層に上がることを妄想する毎日です。

純金融資産保有額のピラミッド

  1. 超富裕層(5億円以上)
  2. 富裕層(1億円以上5億円未満)
  3. 準富裕層(5千万円以上1億円未満)
  4. アッパーマス層(3千万円以上5千万円未満)
  5. マス層(3千万円未満)


 さて、この5階層ピラミッドを何度も見ていたら筆者は違和感を持つようになりました。その違和感は「純金融資産」という用語に起因します。金融資産は金融や会計の用語として一般的ですが、「純」という漢字を先頭に付けた純金融資産は知りませんでした。純金融資産なる言葉は一般名詞なのでしょうか? 純金融資産をネットで検索してみてもヒットするのは先に述べた野村総合研究所の関係ばかりです。そしてなんとウィキペディアにも純金融資産は登録されていませんでした。ということは、純金融資産は野村総合研究所または誰かの造語なのかもしれません。別に造語が悪いとかそんなことをいうつもりはありません。ただ、知れば知るほど純金融資産の概念が不自然というか非常識なものに思えて仕方がないのです。その理由をこれから述べたいと思います。

 純金融資産とは預貯金・株式・債券・保険などの金融資産から「負債」を差し引いたものとされています。そしてこの「負債」には「住宅ローン」が含まれるとのこと。金融資産から住宅ローンを引く??? 筆者は30年以上の職業人生の中で財務や経理に長く携わってまいりましたが、このような概念に出会ったことがありませんでした。住宅ローンは実物資産である不動産を担保とする負債ですから、あくまでも実物資産にひもづく負債として金融資産とは分けて考えるべきでしょう。仮に純額にするならば、まずは不動産の時価と住宅ローン残高をネットした上で、債務超過分を金融資産から差し引くというなら分かります。これは企業会計でいうところの「純資産」を世帯の会計に応用した考え方になります。野村総合研究所はプロ中のプロですからそんな理屈は百も承知のはず。なぜこんな歪な概念を用いるのか不思議でなりません。目的は何なんでしょうか?

 この歪さは例をあげると分かりやすいです。金融資産が4千万円で不動産を保有しない世帯があるとします。この世帯の純金融資産は4千万円なのでアッパーマス層に分類されます。ある日この世帯が2千万円を頭金に2千万円の住宅ローンを組んで4千万円の駅近中古マンションを購入しました。すると頭金支払後の金融資産2千万円から住宅ローン2千万円が差し引かれ、この世帯は純金融資産がゼロ円のマス層に転落します。不動産と住宅ローンの契約が成立したその日に、一文無しのド底辺に転落するのです。わざと例外をつくろうと極端な例をあげた、そんなつもりはありません。例はどこにでもいる少し余裕のある世帯です。どんな理屈を捏ねても世間では例にあげた世帯を一文無しとみなしません。蛇足となりますが、世帯の資産規模を調査する上で不動産を除外するのも違和感しかありません。5階層のピラミッドが仮に不動産を含む「純資産」で作成されていたら、素直に受け入れたことでしょう。

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