驚愕、社員持株会は質屋だった

 筆者が勤務する会社には社員持株会があります。社員持株会とは、社員が毎月の給与や賞与から一定の金額を継続的に拠出して勤務先の会社の株式を取得し、社員の資産形成を目的とした制度です。上場会社の場合、社員持株会を経由すれば原則インサイダー取引から除外され、安全に勤務先の株式を保有できます。また自社の株式が値嵩株であっても、毎月少額の資金をつみたてて購入することが可能です。一方で非上場会社が社員持株会を設けるのは上場準備中の場合が多く、IPOにともなう値上がり益を社員に還元する狙いがあります。上場・非上場いずれの場合も資金の拠出時に会社から奨励金が出る場合があり、福利厚生の側面を持ち合わせています。そして会社側から見れば安定株主の確保につながるため、会社と社員がウィン・ウィンの関係になります。このようにさまざまなメリットや意義を持つ社員持株会ですが、ある日この制度に裏の狙いがあることを知りました。

 数年前、仕事の一環で勤務先の会社の株主名簿を見る機会がありました。上位株主には機関投資家や取引先、創業家に所縁のある個人が並びます。そのような中である役員(以後、役員A)に目が止まりました。役員Aは創業家とは無縁の純粋な従業員の出身です。資産家一族との噂もなく普通の庶民です。なのに異様なほど大量の株式を保有していました。仮にすべての株式を社員持株会で取得したとすれば、若いときから今まで毎月・毎賞与の上限まで拠出しないと到底不可能な株数でした。その瞬間、頭の中で新たなシナプスの結合を感じました。そうだったのか!そういうことかと。上場会社の役員になるような人は優秀な人ばかりです。ところがこの役員Aは上にも下にもYesマン。何を提案してもOKの返事しかしません。話すのが苦手で集会や会議での発言はゼロ。まったく害はないのですが付加価値を生んでいるとは思えない働きぶりで、通常なら課長職すら危うい人物だったのです。

 結局、役員Aは個人財産のほとんどを勤務先の株式で保有しました。「卵は一つのカゴに盛るな」という格言が広く知られているように、資産運用の世界では分散投資が常識です。この常識に背を向け、役員Aは人的資本に加え金融資産のすべてを勤務先に集中投資しました。普通の人は絶対にやらない極めて危険な賭けです。人生の全てを賭けたといっていいでしょう。そして役員Aは見事賭けに勝ったのです。賭けの見返りは大きく、本来なら課長どまりの人生を役員にまで押し上げることに成功しました。金銭的には課長と役員の報酬差額は最低でも5百万円以上、場合によっては一千万円以上になります。役員Aはこの差額を退任までの十数年間受け取り続けたわけです。報酬差額の累計は億を超えているでしょう。まさに人生の勝者。

 役員Aの行為は、株式を「質草」として勤務先に差し出したと考えることができます。質屋であれば質草の対価は現金ですが、会社の場合は「出世」が対価となります。株式と出世を交換したとも言えます。この取引を会社側から見れば、役員Aは大きな質草を預けた信用できる人物、決して裏切らない人物と評価されます。そして最終的に役員Aは出世を会社に返却、つまり退任により質草の拘束は解かれ株式は純粋な個人資産に戻ります。役員Aは自分の能力を正しく評価し、人生の全てを賭ける胆力を備え、そして幸運に恵まれた稀有な人物なのだと思います。あっぱれな方です。出世が保証された取引ではありませんから、恐ろしくて筆者は真似できません。能力を質草で補い出世する。会社もサラリーマン人生もつくづく奥が深いと感じました。

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