個人金融資産2000兆円の考察

 日本銀行が公表する2022年の個人金融資産残高は約2000兆円。内訳は大きい順に現預金が約55%、保険が約27%、株式が約10%、投資信託が約4%、そのほか約4%となっています。現預金の大きさは昔から言われている通りですが、驚くのは約3割を占める保険です。どんだけ保険が好きなの?って感じです。結果、現預金と保険が個人金融資産の82%を占めるに至っています。これらの金融商品について考察、というより53歳まで生きてきた筆者の感想を述べたいと思います。一個人の経験に基づく感想なのでエビデンスはありません。

第一位 現預金 1100兆円(55%)

 日本人はリスク資産が嫌いで不合理な人たちなのでしょうか? いいえ、見方によっては合理的な選択の結果とも考えられます。1990年代のバブル崩壊から四半世紀以上経済成長せずデフレが続いた日本では、現預金の実質的な価値が増加し続けました。しかも、資産価値が増えたにもかかわらず増加分には一切課税されませんでした。預金は老若男女問わず誰でもできる金融商品、普通預金や定期預金でほったらかしておけばよかったのです。意図して選択したかどうかは別として、結果として現預金は無リスクで利回りのよい非課税金融商品だったわけです。このように現預金が第一位となったのは日本人が合理的な証です。

第二位 保険 540兆円(27%)

 バブル最盛期には予定利率が5.5%に達する年金保険が存在しました。別名「お宝保険」というやつです。いまS&P500米国株価指数に連動する投資信託なら平均で年5.5%を超える利回りも想定できますが、同時に一年間で30%超の価格変動リスクを引き受けなければなりません。バブル期の年金保険は価格変動リスク「無し」で予定利率が5.5%です。いま60歳を超える世代の人たちは、こんなにも有利な金融商品を契約し老後に備えることができました。いまの若い世代には信じられないかもしれませんね。とはいえあまりに契約者に有利すぎた結果、低金利環境下の逆ザヤに耐えきれず潰れた保険会社もあったほどです。価格変動リスクが無い代わりに信用リクスがあったのです。

第三位 株式 200兆円(10%)

 バブルの頃はもう少し大きな比率だったと想像します。バブルがはじけて半値以下になった株はいくらでもありました。中には十分の一、果ては倒産で紙切れとなった株も少なくありません。長年含み損に耐え続けた個人投資家もいたと思いますが、暗黒の民主党政権時代にはさすがに諦めたと思われます。その後のアベノミクスから株価は戻って来ましたが、新たに株主となったのは外国人投資家とGPIF(公的年金)です。この大きな流れを前提とすれば、個人金融資産残高において株式の比率が10%というのも腑に落ちます。

第四位 投資信託 80兆円(4%)

 現在ネット証券が提供する低コストで優良な投資信託のラインナップを見慣れた世代には想像もつかいないと思いますが、ちょっと前までは投資信託はぼったくり金融商品の代名詞でした。販売手数料3%、信託報酬2%、毎月分配金と称して蛸配当、しかも分配金は課税され資産はみるみるうちに減少しました。こんな詐欺的な投資信託モドキを金融機関はあの手この手で売ってきたわけです。最大のターゲットはまとまった退職金を手にした定年退職者。保険しか金融商品の購入経験のないカモが、退職金というネギを背負って金融機関の門を自らの手で叩くのです。金融機関にしてみれば笑いが止まらなかったことでしょう。当たり前ですがこんなポンコツ商品で資産が増えるはずがありません。むしろ、よくぞランキング四位に食い込めたものです。

 以上、個人金融資産2000兆円の内訳について個人的な感想を述べてきました。金融商品ごとに事情はいろいろでしたが各残高となった理由には不思議と納得感がありました。最後に各金融商品の未来を少しだけ考えてみたいと思います。国民性もあり現預金は50%キープでしょうか。高利回りの保険契約者はいずれ鬼籍に入り、利回りの期待できない保険という金融商品は減ってゆくでしょう。ネット証券やシンNISAなどの投資環境は十分に整いましたので、現役世代の老後への備えは保険ではなく投資信託や株式に向かうと予想します。ただし米国や全世界の株価指数に連動する低コストのインデックスファンドが大半を占め、株式は個別株よりも小口化されたETFが主流となるでしょう。しかもネット証券の売買手数料は限りなくゼロに近づいています。ぼったくり金融機関の高笑いは昔話となり、個人投資家にはすばらしい未来がやってきそうです。

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